カレイの一夜干しの頭である。
僕はこれを勝手に「よだれ頭」と呼んでいる。
一夜干しにする時に、尾に紐を通して吊り下げる。
太陽が、カレイに降り注ぎ、身を引き締めていく。
その間、カレイのエキスは集まって頭に流れ落ち、よだれのようにポタポタと落ちていく。
こうして頭は、アミノ酸の塊となる。
その頭を低温の油で、揚げては休ませを繰り返して、揚げる。
まず唇にかじりつく。
バリッ。
唇が頬が弾けて口の中に飛び込んでくる。
「ははは」。
その瞬間、誰もが笑う。
笑うしかないのだ。いや、笑うことしかできないのだ。
うまみの凝縮だけではない。香りも濃縮して、口を満たす。
もし僕が今際の際にいたとしても、この頭を食べた瞬間に生きる力をもらうだろう。
あとはこれにどの酒を合わせるか、考える喜びが待っている。