小さな店に、人情が満ちていた。
新年会が嫌いだ。
赤の他人同士が新年を祝い、酒を飲みかわすなんて、居心地が悪い。
新年から気を使いたくない。
大切な大切なお酒の、飲み始めだもの。
という自分勝手な理由で 、仕事始めは「一人下町の居酒屋で過ごす」と決めて十数年。
「シンスケ」、「江戸一」、「岩金」、「みますや」、「丸好」・・・。
お世話になりました。
ずいぶんと、一人悦に入りやした。
さあ今年はどこに赴こうかと、やってきたのは久松町。
粋な女将さんがいるという「栄作」へ。
カウンター7席だけの、小さな店。
女将さんは70代くらいだろうか。
一糸乱れることなく結い上げた髪に細面のお顔。
立ち姿が凛としてきれいだなあ。
お客は、すでに60代の常連二人がいい調子。
「最近のテレビは、つまんないねえ」
「CSだとかスカパーとか言っちゃって、やたら番組増えてっけど、 ありゃ、いつ見るのかねえ」
「そういやかみさんがね。韓国TV見たいってんでね。ひと月二千五百円よろしいでしょうかってんで。おういいよって入ったら、ドラマ見たまんま微動だにしやしねえ。俺なんか、ゴルフの番組見ながらでも、なんか他にしながら見てるってえのによ」。
「そりゃ女性がドラマ見る時は真剣よ。集中力よ」。
「するってえと俺は、年取って、集中力無くなったてえことかな。まあいいや。 でもよ。ドラマ見たまんまだから、洗い物たまっちゃってね、このあいだなんか俺が洗ったんだ。 でも俺が洗うときれいだよ。洗剤いっぱい使うからね(笑)」
たわいもない話が暖かい。
「うちは何もないんですけど。もしよろしかったら」と出されたのがコースター。
達筆な文字で、一枚一枚品書きが書かれている。
「あじす下さい」
鯵を切り分け、皿に盛る。
そいつを肴にぬる燗でやっていると
「もしよかったら、こういう食べ方を試されませんか」と出されたのが、醤油と酢を半割にしたものを注いだ小皿。
「私が考えたんじゃなく、お客さんに教わったんですがね。これに五分ほど浸けて食べてみてください」。
おおっ。
酢が程よく回って、脂が上品に、キレのある味わいに。
酒にますます合うわい。
「こちらばかり盛り上がってすいませんねえ」
女将が気を使う。
「いや、楽しませてもらっています」というと
「じゃあ、もっと話しちゃおうかな、ガハハハ」と、おじさんたち。
「冷奴」と頼むと
「湯豆腐にしますか? 入れる具はあまりないですけれど」と いうので、
ネギと春菊で湯豆腐に。
まあ話は面白いは、女将さんはいいわで、ぬる燗4本も飲んじまった。
酔っぱらいは、ここで〆ることできずに「笹新」へ。
ポテサラとお新香でもう一本。
締めに生駒軒でラーメン食べていたら 、人に呼ばれて、新井薬師に向かい、もう一献
はしご酒、決別すると誓った年初から、去年と変わらぬ段の上。