カンテサンス

食べ歩き ,

今秋発売の「ミシュラン東京」で、フレンチで日本人シェフの店で三ツ星をとるのはどこか。

皆の話題である。

 

そういう時、必ず話題に上がるのが、「カンテサンス」、「ナリサワ」、「アピシウス」、「レカン」、「コートドール」である。

 

しかし三ツ星というのは、料理だけではなく、ワインストック、サービスとその人数、調度品、カトラリーにいたる総合力なので、いずれもいい店ながら、一長一短あり、難しいと思う。

 

さて「カンテサンス」である。

もしミシュランが三ツ星献上するとしたら、若きシェフの料理だろう。(それに話題性という下心を加えて)。

 

「ソースはおいしいのは分かるが、素材のおいしさを邪魔してはいけない」。

という、モダンと先進を尊ぶ、フランス人らしい発言をする、師パスカル・バルボーの教えを、日本人らしい繊細さとしなやかさを加え、結実させつつある料理は刺激的で、ゲンダイフランス料理の答えでもある。

 

複雑独創に満ちた料理は一見「難解」、「前衛」、「淡白」、「考えすぎ」などと捕らえている人もようが、実は極めて単純な思想に貫かれている。

 

「ピュア」。

答えはこれだ。

素材のピュアな味を引き出し持ち上げる。

ただこれだけにある。

 

このことを頭において、虚心坦懐に食べれば、素材の芯が心を打つ。

 

例えば、この「豚のロースト」。

事前に塩を一切せず、、焼き、休ませを90回近く繰り返し、四時間かけて焼き、焼き上がりにもしおせず切られた料理。

 

皿の横には塩。

手前には、ニンニクとオリーブ油、ローズマリーのソース。

 

ガルニはそら豆とプティポア、レンズマメのガレット。

 

肉汁があふれ出すという感覚ではない。

飛び出すのだ。

余分に甘くなく、クリアーな味わい。

口腔のどこにもひっかからず、やさしい滋味がふわりと広がり、ほの甘い香りが鼻に抜けながら、喉元に落ちていく。

 

豚はまだ、焼かれたことを知らない。

素材の淀みない、芯だけのピュアの味。

こらが彼の目指すところなのだ。

 

本日(実は一ヶ月前だが)のベストは、

ピスタチオ、ココナッツ、コーヒーを合わせたデゼール

三者の風味が正三角形を描いてまとまり、互いに手を取り合いながら、高みに登っている。

見事な計算、仕事による、才を感じさせる皿だ。

 

その他、

辛味の代わりに微炭酸でアクセントをした。

「ガスパッチョ・ペキアン(フランスの微発泡酒)

開店以来定番

カシューナッツの香りが利いた

「山羊のミルクのヴァヴァロア」。

「ベビーコーン・シネマ」

添えられたムースは、ポップコーン。

ユーモアに満ちたうまさ。

「ビーツで包んだフォアグラムース」

ウイキョウ、リンゴ、里芋

主役フォアグラに、酔うような相性を見せる相手役を配置。

「ハタのポワレ 胃袋、肝添え」

これも一切塩がかっていない。シンプルな焼いて生まれたうまみを噛み締める。

夏みかん、オリーブ、枝豆、蕨、ルッコラソース。

そして豚

「パルミジャーノのムース」

卵黄、新玉ねぎ。

「メレンゲソルベにカカオかけて」。

 

以上でお分かりのように、彼のソースやガルニはソースやガルニではない。

あくまで主役が引き立つようなコンデイマン(薬味)という発想なのである。

 

ある意味日本料理の発想にも近い。

が、根底にはフランス料理のエスプリが脈々と流れている。