「ガード下の焼き鳥屋で、一杯やっていくかぁ」。
そんな気楽さが似合う、焼きトンと鳥が混じったような焼き鳥屋は、格好の憩いの場だ。
一方で、値は張るが、素材をより吟味し、内装に気を配り、焼き鳥に焦点を絞った店も魅力がある。
こうした店はここ最近増加してきており、雑誌にも頻繁に紹介されている。
紹介文を見ると、伊達鶏、比内鶏、名古屋コーチンと、やたら鳥のブランドが目につく。
もちろん鶏肉を厳選するのは重要だが、職人とその技にもスポットを当ててもいいのではないか。
すし屋や天ぷら屋で、ご主人と弟子の出来映えに差が出るように、おなじ焼き鳥屋でも職人が違うと味が変わる。
鳥を焼くという仕事にも名人がいる。
そのことに気づかせてくれたのが、バードランドだ。
例えば皮を食べてみよう。表面にふられた塩は甘く変化し、外側はカリッと香ばしく、内側はふんわりと仕上げられ、はらりとふられた山椒が脂を引き締める。
かみ締める喜びと香る幸せがあって、歯を当てた瞬間に顔が崩れるのだ。
白胡椒によって香りのクセを弱め、甘みを引き出したハツ。外は張りつめ、中心はねっとりとレアに仕上げたレバー。
肉汁とともに甘みと香りが流れ出すつくね。
かみ締めるごとに、豊かな肉汁がこぼれる正肉、バルサミコ酢による下地を潜らせる事により、むっちりとした食感が引き出された砂肝など、そこには、部位によって異なる筋肉細胞や水分、脂分、クセ、香りを見極め、仕上がりの理想を思い描き、築き上げてきた形がある。
もしあなたが堪能されるなら、コースだけではなく、できれば全種類試すことをおすすめする。
また串頭と後の塩気の違いと、焼き鳥ならではの歯でしごき取る楽しみのために、一人一本分を頼み、出されたらすぐに食べよう。
同じく、焼き鳥の概念を変える愉悦が味わえるのが、バードコートである。
ご主人野島康弘氏によるバードランド和田利弘氏譲りの技を、下町の庶民的雰囲気と価格で味わせてくれる店だ。
とろりと甘い黄身を絡めて食べるつくね、もも肉で巻いたねぎま、トマトなどの野菜串など、新たな考えで焼かれた串もあり、それらが絶妙な間で出されるので、後は好きな酒を頼み、焼き鳥の口福に身を任せるだけである。
最後のご紹介はちょっと変化球。肉質がきめ細かいフランスブレス産の鶏やウズラ、ホロホロ鶏、仔鴨が楽しめる「萬鳥」だ。
串焼とは異なって、手でつかみ、かじりつき、かみ締め、しゃぶる焼き鳥は、他店では味わえぬ高揚感を運んできてくれるのである。
「萬鳥」閉店