至上のチキンカツ

食べ歩き ,

この写真を見て、「ハンパない」と思った人は、食いしん坊である。
この肉が、鳥の胸肉だとわかり、この加熱具合に、ありえないと思った人は、相当な食いしん坊である。
もしかすると人生の中で、至上のチキンカツかもしれない。
胸肉をこのように火入れすることは、生半可なことではない。
極めて油切れもいい。
ここは揚げ物の店ではない。イタリア料理店である。
「チキンカツが、実はトンカツと同じくらい好きである。ゆえに我食べたい」と熱望した、わがままなトンカツおじさんのために、真面目なシェフは、有名天ぷら屋から仕事の術を聞き出し、おそらく何回か試作してからの完成だろう。
カツを噛めば、カリッと衣が弾けて口の中を香ばしさが走り抜ける。
そして歯はしなやかな肉に抱きしめられる。
ゆっくりと肉汁は染み出して、舌に広がる。
なにかこう、噛みたいんだけど噛めないような禁断の食感に、うっとりと惚れる。
どこまでもエレガントで、儚い。
それは命そのものだと気づいて、小さくありがとうと呟く。
「ラ・ブリアンツァ」にて