〜クニュの秘密〜

食べ歩き ,

〜クニュの秘密〜
タコが茹で上がった。
ぶつ切りにされ、オリーブ油とパプリカをかけて運ばれる。
クニュ。
キュニュニュ。
タコ足の皮にめり込んだ歯が喜んでおる。
皮と皮下の半透明なコラーゲンは、歯を包み、舌や軟口蓋をくすぐって、体を骨抜きにしようとする。
そこへ、エビのような栗のような甘い香りが口いっぱいに広がっていく。
誰もが、目尻を下げて笑っている。
鎌倉に移転される、代々木上原「アルドアック」のタコのガリシア風である。
思うにタコの魅力とは味ではなく、香りとこの食感ではないだろうか。
人間は粘りやからみつくものが口へ入って来た時に、喜びを感じるという。
よく混ぜた納豆や山芋しかり、生白身しかり、舌しかり。
佐島で取れたタコは、流れの強い場所にいたのか、足の筋肉が発達して、クニュクニュが分厚く、たっぷりとある。
そのため口のなかでもだえ、しなだれ、まとわり、官能を刺激するのであった。