「茹で加減は、大丈夫でしょうか」。
マネージャーの問に、笑顔で答えた
「そうですか。初物だったので、うまく茹でられたか心配だったものですから」と。彼も笑顔で答えた。「茹でる」。

この一見単純な調理の意味を考えさせられた。

.茹でただけのアスパラは、運ばれた瞬間に、青々とした甘い香りをまき散らす。
それだけで幸せがにじり寄る。

繊維が気にならずに歯がすっと入りながらも、アスパラのアスパラたる食感は残す、精妙な茹で加減。
穂先、穂先の下、根元で、繊細に異なる歯触りを感じさせる。

そしてアスパラは、命をみなぎらせて、大地の味わいを爆発させる。
生きていることを、深々と感謝する。
マスタードソースをかけてまた、感謝が深まる。

メインは、マナガツオのローストをいただいた。。

甘すぎない甘みは、上品ながら、奥底に官能をくすぐる魔性が潜む甘みである。
ちょいと色っぽい、常磐津のお師匠さんといった感じだろうか。
そして腹身の食感はどうしたことだろう。
まるでムースのように舌の上に広がっていく。
繊維はどこへ行った？
その食感といけない甘みが溶け合って、 僕は遠くを見つめながら、ゆっくりと失神していった。