もう茹であがった香りだけで、目尻が下がる。
母親が赤子を抱くような優しさで、甘い香りが顔を包む。
今年も、北海道ジェットファームの長谷川さんからアスパラが届いた。
天気も上々で味は良くなったそうだが、降霜で苦労されたという。
皮をむいて、下の方を少し切り、沸かした湯に皮と切った下の部分を入れて、しばらくしてから、茹でた。
根元を入れ、20数えてから全部入れ、きっかり1分。
茹で上がったアスパラは緑が増し、艶やかに輝いている。
白アスパラは根元から食べるが、グリーンアスパラは頭からいく。
「あっちち」と言いながら根元をつかんで、ガブリといく。
ああ。
一口で力が抜けた。
青い甘さが、吹き抜ける。
誰にも邪魔されない、澄んだ、無垢なる甘さが、舌を、鼻腔を、上顎を、そっと撫でる。
目をつぶれば、広い青空の下で、アスパラ畑に立っていた。