<シリーズ食べる人>蕎麦屋編VOL1
「布恒更科」で、勘定を済まし、領収書を受け取っていたら、レジ横のテーブルで、男二人が悩んでいた。
そばがきを頼んだのはいいが、添えられた大きな海苔板を巡って、協議をしている。
「これどうしたらいいんやろ」
「俺らそばがき自体、食べるの初めてやもんな」
「海苔は、そばがきの桶にいれるんやない?」
「いやそば猪口に入れるんやろ」
「そば猪口には大きすぎて、入らんやろ。そうか。先にかじるやんねえか」
すると片方が
「ええい、入れてまえ」と、
大きいまま、無理やりそば猪口に押し込んでしまった。
海苔は窮屈そうにそば猪口に押し込められ、しなっていく。
「ああ、なにやってんの。そうじゃないよ。海苔はちぎってちぎって、適時そば猪口に入れるんだよ」。
僕はそう心の中で叫んだ。
その時である。
「ビリビリッ」。
大きな音が鳴り響いた。
なんだろうと手元を見ると、領収書が無残に破かれていた。