<シリーズ食べる人>ラーメン編3

日記 ,

<シリーズ食べる人>ラーメン編3
飲んだ仕上げに、屋台ののれんを潜った。
屋台ラーメン屋の店主は、覇気のない、しょぼくれて痩せた人の場合が多い。
しかしこの店主は、貫禄のある初老の男性である。
目に力がある。
本職の目である。
これは期待できるぞと、うれしくなってきた。
しかしラーメンを一口すすって、目を丸くした。
やたらしょっぱいのである。
しかもご丁寧に油っこい。
中細の麺はやわやわで、スープと仲たがいをなさっている。
こりゃダメだ、もう食えんと、二口食べて箸を置いて、勘定をしようとした。
その時、四十歳位の男が入ってきて店主に声をかける。
「よう。玄さん久しぶり。変わらず道楽しているねえ。景気はどうだい?」
「おうっ。ごぶさた。いやあ、銀座で餅屋を二軒やらしてるが、ちっともだねえ。そういやあブクロの玉はどうした。最近見ねえけど」。
「いやあチャカ見っかっちゃってね。クサイ飯食ってるよ」。
「そうかい。おめえも気をつけろよ」。
「いやあ、玄さんみたいに血の気ねえからなあ、あの頃はマムシの玄さんて呼ばれたろ」
「ふ。昔の話よ。ラーメンでいいかい?」
経営者の身元を知って、もうやめようと思っていたラーメンを、速攻で、猛然と食べ、スープも一気に飲み干した。
「ごちそうさまでした。おいしかったですぅ」。とお辞儀をして、お金を払い、足早に立ち去った。
「ありがとよ」。
ドスの効いた声が背中に刺さる。
ぼくは、舌ではなく心に、しょっぱさを刻みながら、屋台を後にした。
写真は無関係であります