メニューを見て悩んだ。食べたいものばかりなのだ。ううむと頭を抱えていると、
「牧元さん、悩んでいるのか、体調悪いのかどっちですか」と、メートルの岡部さん。
「小帆立いって、かます、鶏といくか、ヤリイカいって、牡蠣いって、カマスの魚パターンでいくか、それが問題だ」と告げると、
「うーん。確かに悩みますねぇ。でも牧元さんの好みなら後者をおすすめします」
「じゃあ魚介定食で」。
圧巻は「地牡蠣のムニエルとフラン」であった。
牡蠣を一口、そのまま食べて、
「ああっ」と声を漏らしたまま何もいえず、顔が崩れた。
ぎりぎりまで突っ込んで火を入れられた牡蠣は、味わいが凝縮して、舌の上で爆発する。
その濃縮にぶつけるようにも大胆につけられた、塩味と酸味。
ほのかにおいしい料理が跋扈する中で、圧倒的にうまい。
「フランス料理だぁ」と叫びたくなるような、素材が生き生きと躍動するダイナミズムがある。
今度は牡蠣の上に、海の滋養が詰まったようなフランを乗せて食べる。
するとどうだろう。フランの優しさが濃い牡蠣を包み込んで優美な気分になる。
これが田代料理なのだ。
海辺で漁師が焼いてくれた獲れたての魚を食べて、目を細めていると、
と、自分の息子のことのように喜ぶ漁師のおっちゃん。
そんなような、素材に対する深い愛情が伝わってくる。
十数年来食べ続けている
もそう。
ヤリイカの甘みと冷たいトマトの甘みや酸味が調和して、何度も食べているのに、笑い出してしまった。
また付け合せの野菜の力強いこと(特にセロリが凄い)
上品なあまさを滲ませる「ねいらかます」は、 微塵に切って軽く火を通した野菜の食感も面白い、甘酸っぱいベルジュのソースとぴたりと寄り添う。
添えた「深谷ネギとトリュフのタルタル」。
ああ神よ。わたしの罪を許したまえ。
かずさん。ぼくはこの地をこよなく愛します。