かつてアークヒルズ森ビルに「ル・マエストロ・ポール・ボキューズ・トーキョー」というレストランがあった。
シェフはトロワグロをはじめとして長年フランスで修行をした市川氏で、ポール・ボキューズの名作をはじめ、独創的な料理もいただけることができた。
また当時山本益博さんが、「ガストン」というフランス料理のガイドブックを1996年に出された。
1996冊しか刷らず、シリアルナンバーと益博さんのサインがある、今では入手困難なガイドブックである。
そこにガイドブックをお手伝いしていた僕も参加させていただいた。
しかし苦労の連続である。
食べるのはいいのだが、その料理がいかに美味しいかだけではなく、どのように他店と違う特徴があるのかを明確にし、しかもいささか文学的に書かなければならなかったからである。
圧倒的なフランス料理の経験がなかった僕は、四苦八苦して何時間もかけて書き上げた記憶がある。
1997年版で担当したのが、「ル・マエストロ・ポール・ボキューズ・トーキョー」店であった。
僕にはちと荷が重い。
書いたのは下記の料理で、なんとこの料理を考案したのは、スーシェフだった現「ラフィナージュ」の高良シェフであるという。
当時厨房には、「ナベノイズム」の渡辺シェフもいたという。
しかし高良さんも渡辺さんもお会いしていない。
その文章の一部をあげる。
「長時間コンソメで煮含めた聖護院かぶらの薄切りに包まれたハタのポワレは、柔らかな滋味を滲ませるかぶらとコンソメのソースが、魚の甘味を優しく引き立てる。
その他、骨ごと豪快に筒切りにしたヒラメに、オゼイユソース合わせた皿など、上質な素材を豪胆に駆使した独創的な料理である。
そんな市川シェフの尖鋭とボキューズの古典、対照的な料理が共存し、協奏するスリリングなレストランである」。
ハタがカブの薄切りに包まれた美しさに目を見張り、その味に心が溶けた思い出がある。
だが今だったらこう書くだろう。
「ハタが聖護院かぶらの薄切りに包まれていた。
時折動物的凛々しさを発揮させようとするハタに対して、安らぎなさいと諭すかのように。
カブの優しい甘みに包まれたハタは、たくましい体の中に秘めた滋味をじっとりと滲ませ、コンソメのうま味と抱き合う。
そしてカブの甘みは、すべてを理解し抱擁して、ハタの内部にある繊細を引き出し、時間を優美に輝かせるのだ」
すべての文章は、ホームページに乗せました。結構恥ずかしい。気負いすぎて硬い言葉が多く、今すぐにでも校正したい。でも直していません。
41歳。将来マッキー牧元と名乗ることも、この仕事で生計を立てることも一ミリも想像できなかった時代です
右上の検索窓で、聖護院かぶでもボキューズでも検索してみてください。