趙楊さんは土鍋の中から、ハンドボール大の丸い塊を取り出した。
「水煮粉蒸牛肉」という料理である。
四川料理好きな人なら、「水煮牛肉」という辛い料理をご存知だろう。
しかし水煮と牛肉の間に“粉蒸”という文字が入る、この料理はまったく違う。
もち米と普通の米を一緒にし、豆板醤や胡椒などで味付けて、牛ヒレ肉にまぶして1時間寝寝かせ、それを豚の胃袋に詰めて5、6時間煮た料理なのだという。
つまり先ほどのボールの表皮はガツなのである。
中身だけを取り出して盛られ、ガツは別に味つけて出される。
「ああ。うまい」。
一口食べた瞬間に、思わず歓声が漏れた。
味付けではない米の優しい甘みとたくましい牛の滋味、豆板醤のコクと辛味が渾然一体となっている。
様々な味の要素があるのだが、胃袋の中で長時間じっくりと加熱されたことによって、境界線がない。
それぞれが混沌と混ざり合い、丸みを帯びて響き合っている。
そこには、時間と手間をかけないと生み出せない真味があった。