「お客さん、納豆嫌いじゃないです?」。
「好きです」。
「よがったあ。昨日から寒ぐて寒ぐて、あー今夜は納豆汁だあって作ったんで、食べてください」。
鶴岡「いな船」で、豆腐と芋の茎、つぶした納豆による味噌汁が振舞われた。
「納豆、つぶすんは昔は子どもだちの仕事だったけど、いまは子供も忙しいだろ、ばっちゃんの仕事ですよ」。
「ずずっ」。
とろりと熱い汁が、体の隅へと広がっていく。
「はあ~」。
幸せのため息一つ。
椀から顔を上げると、女将のうれしそうな顔と出会った。
母の愛と民の知恵、地の恵みと人の心に満ちた汁だった。