「水から蒸し、膨らませ過ぎない手前で火からおろすのが、一番おいしいのです」
そういって出された蛤は、ふっくらと身を膨らませながら、無垢な肌合いを艶やかに輝かせている。
恐らく築地で入る最上級の蛤だろう。目を瞠るほど大きく、美しい。
そおっと殻からはずし、一口で食べる。
口に含むと、蛤のジュースが溢れ出て、瞬く間に満たされた。
海の豊饒で膨らんだ口に、シャンパーニュを流し込む。
するとどうだろう。さっきまで気取っていたシャンパンは熱情を発し、蛤のコハク酸はより濃密となって、口中でぐるんとでんぐり返しをした。
Jean Lallement Cuvee Reserveの豊潤と蛤のミネラルが愛し合う。
勝手に人の口の中を借りて、舌をからめあい、長い長いディープキスをする。
そのエロスは噛むごとに高まり、コーフンが体の芯を駆け下りた。
20皿20種の酒を合わせる、極上の空間、有栖川「クラビエール」の一皿。
極上の空間
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