「縁の下の力持ちというか、様々な料理のベースになりますけど目立たない。でも無いと味が成り立たない。そんな「玉ねぎ」を店名につけようと思ったのです」。
そう「tamanegi」の地頭方貴久子シェフは言われた。
ここは、ソムリエのご主人と二人だけでやられている、大阪の小さなイタリア料理店である。
爆ぜるような身を持つ、長崎産の凛々しい穴子には、優しいそら豆とビワを合わせる。
鳥のフォンで茹でた、筍、スナップエンドウ、インゲン、カリフラワーなど季節の温野菜には、「カルボナーラ仕立て」にして、卵の甘みとチーズのうま味を添える。
「ピチ、明石小ダコのピリ辛トマトソース」は、煮詰め過ぎない的確な火入れのトマトソースと、あえてタコの味をソースに溶かさず、タコとピチの食感を楽しませる。
あるいは、クニュッと弾むショートパスタのクルセートの食感の中で、石田めん羊牧場のラグーは、羊の滋味が優しく溢れていて、思わず唸る。
そして「黒峰しゃも」胸肉は、見事な加熱で、繊細な胸肉の持ち味を生かし、噛むごとに滲む柔らかな滋味に、ため息をつかせる。
どの料理の派手ではない。
しかし、どうだ凄いだろうという料理人の意地はなく、食材を暖かく見つめた素直な料理である。
それでいながら、どこかで出会った料理とは違うささやかな個性があって、何よりもしみじみとうまい。
ごちそうさま。
これは通うな。
「tamanegi」の地頭方貴久子シェフ
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