その肉は潤んでいた

食べ歩き ,

その肉は潤んでいた。
しっとりと濡れながら、「早く私を焼いて」と、囁いている。
よし。でもその前に、君のエキスをいただこう。
仔牛を主体に、ウサギとギタローシャモでとったブロードである。
ああ、これは。
野菜を入れていないのに、甘い。
塩を入れていないのに、味の輪郭がある。
液体なのに、球体となり、滋養が舌を転がりて、細胞へと染み込んでいく。
地平の彼方まで穏やかなり。空の果てまで豊かなり。
「はあ」。ため息ひとつ。僕にできることはそれだけさ。
次に彼女は焼かれた。
プリッ。
ぱさつきやすい仔牛肉なのに、噛んだ瞬間に弾ける。
クリクリッ。食感に、命の滴がある。
どうだいっと、肉が誇らしげに裂け、肉汁をにじませる。
仔牛特有の優しい味わいながら、噛むほどに味がにじみ出るではないか。
歯と歯茎に、深い味がからみつく。
こんな仔牛があるのだろうか。
十勝オークリーフ牧場の仔牛は、注ぎ込まれた愛を味の深みに変えて、我々を圧倒する。
メゼババにて。