伊勢「一月家」は、大正3年創業、100歳になる大衆居酒屋である。
三代目となる、お父さんとお母さんが仲睦まじく働いている。
「日本三大居酒屋湯豆腐」という、湯豆腐を頼む。
別に取り立てて突出したものはないが、小鍋仕立てなぞにせず、温めた豆腐と葱、鰹節に出し醤油がかけてあり、すぐに食べられるところが、大衆居酒屋の心意気である。
ついでに言えば、豆腐は滑らかで、熱々のまま舌につるんと滑り込んで、酒を欲求する。ここもまた大衆居酒屋の正しい姿である。
ポテサラは、マヨより甘みが利いて、角切りにされた胡瓜のみずみずしい歯応えがアクセントになっている。
干しキスは、小さなキスの干し物で、噛み締め噛み締め、にじみ出る滋味に酒を合わす。
「ふくだめ」は、トコブシの煮物で、甘辛い醤油味で、柔らかく煮つけてある。
品書きに見慣れぬものを見つけた。
「盆汁ってなんですか?」
「ああ盆に必ず飲むみそしるでな。野菜が八種類入れるのが決まりや」。
運ばれた盆汁は、味噌汁というより煮込みの風貌で、濃厚な甘辛い味噌汁が、酔っぱらった舌を喜ばせる。
大根、カボチャ、葱、大豆、茄子、インゲン、獅子唐、油揚げの細切りで八種類。中でも大根は、この味噌汁と一緒に煮込んであるので、芯まで焦げ茶に染まり、くたくたである。
一味をかけて肴にしているうちに、小腹が空いてきた。
品書きにカレーライスがある。
これは頼まなくてはいけない。二軒目でさっきは〆まで食べたが、どうあっても頼まなくてはいけない。
大衆居酒屋のカレーとはいかなるものか、追求せねばならない。
聞けばまかないだったものを常連が見つけて、「出せや」となったものらしい。
カレーは4代目の発案だが、3代目は「居酒屋でカレーなんぞ置いてはいけない」と、当初は反対したらしい。
そう聞けば、なおさら頼まなくてはいけない。
カレーは、ズッキーニと玉葱、豚コマと鶏肉が入り、スパイシーなカレーであった。
満腹でもスプーン持つ手が加速するほどうまいが、大衆居酒屋的ではない。
いや、こうしたインド風カレーも難なく取り込んでしまうのも、大衆居酒屋の持つ包容力なのかもしれない
伊勢「一月家」は
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