マナガツオは、空気を含んでいるかのように、ほんわりと舌の上で崩れていく。
それは甘い空気だ。
海のエロスを抱いた、甘い夢だ。
斎須シェフは、マナガツオを焼いた。
命を抱きかかえさせながら、そうっと、大胆に焼いた。
それが甘い夢となって、舌にこぼれ落ちる。
一口食べて押し黙り、二口目でようやく「おいしい」と言葉が出た。
見上げれば、全員が子供の顔になって笑っている。
丸く優しい魚の甘みは、ソースに溶けた黒オリーブの香りと出会い、嬉しそうに微笑んでいる。
挨拶に見られたシェフに一言だけ、「マナガツオおいしかったです」といった。
シェフは、満面の笑みを浮かべ、頭の上で両手を合わせ、去っていた。
三田「コートドール」
それは甘い空気。
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