ゆっくりと。ゆっくりね。
黒文字を差し入れた瞬間、生菓子からそう囁かれた。
半田「松華堂」の生菓子「梅日和」は、楚々と佇んで、人間の心を見つめている。
菓子に言われる通りにそうっと黒文字を入れれば、ちぎれることなくめり込んでいき、ようやく二つに割れる。
桃色の羽二重に唇を寄せると、さらりと吸いつく。
それは赤ちゃんの頬だった。
食べてはいけない切なさが漂う皮を噛むと、粒あんの存在感が顔を出す。
今にも消え入りそうな、はかない品をとどめた皮から、豆の香りが立ち上がって、鼻に抜けていく。
春とは、早春とは、おそらくそういうものではないか。
ゆっくりと。ゆっくりね。
日記 ,