路地に入ると、パンダと鯉が現れた。
パンダは竹を登り、巨大な鯉は滝登りならぬ壁登りをしている。
ここは京都千本丸太町「草魚」。
そうかこれは鯉ではなく草魚か。どうりで背ビレが小さい。
路地にパンダと草魚。深いなあ。
老夫婦が二人で切り盛る店に、客は僕一人と、隣の3人家族。
注文するたびに、「おおきに、ありがとね」というお母さんが可愛い。
ニンニクなしの餃子は、白菜、ニラ、豚ひきという王道だが、肉の存在感があって、その歯応えが泣かせるねえ。
「かしわのからあげ」は、もも肉一枚揚げで、皮は薄く、パリリと香ばしく弾け、肉はしっとりと肉汁を含んでいる。
こりゃあ庶民版・脆皮鶏だな。
「味はついてるけど、足らんかったらこれかけて」。と置かれたのは、食卓塩。
いやただの食卓塩やない。山椒塩に入れ替えている。
お奨めに従い、三分の二ほど食べてからこれをつければ、ああビールが進む。
普通のラーメンはなく、湯麺は、五目麺、天津麺、叉焼麺の三種だけ(それでも皆650円なのだよ)。
隣席が頼んだ叉焼麺の澄んだ塩味スープと、縁赤叉焼に悩んだけど、焼きそばを頼む。
「味はついてるけど、足らんかったらこれかけて」と置かれたのは、餃子のタレ(酢醤油)。
塩味焼きそばは、塩淡く、うまみ調味料も微かでね。
よく焼かれた、極細麺の味が生きるのだよ。
キャベツ、九条葱、豚コマ、キクラゲ、人参、筍という具の布陣もよく、これはなにもかける必要がない。
やはり京都の中華は、昔の優しさがあって、心をほんのり温める。
「ありがとおいしかったです」。と帰り際にご主人に挨拶すれば、「おおきに、また来てください」と、満面の笑顔。
御年74歳、また来るからね。
2016年閉店