<ヨネさん事件>VOL2 前号から続く

日記 ,

<ヨネさん事件>VOL2 前号から続く
おばあちゃんとおじいちゃんの話はエロい。
いや正確には、エロくない。
「あんたんとこのシゲさんのズロースはなあ」とか
「わしが嫁っ子来る前に、サダさんが夜這いしてきてなあ」
「わしは、まだ元気じゃ」とか、さらに具体的かつ詳細な性的説明もなされるので、内容的にはエロいのだが、ムードは一ミリもエロくない。
新幹線車内では、明るい農村ならぬ明るいエロ話が永遠に続き、酒を飲み、つまみをつまみ、皆大笑いしとる。
こりゃ日本も健全だなと見て見ぬ振りしながら観察していると、通路側に座っているおばあちゃんが、腕置きに顔を埋め、唸り始めた。
最初は小さな唸り声だったが、次第に大きくなっていく。
「う〜う〜うう〜」。
どうやら、泣いているのだ。
途端に辺りが騒ぎ始める。
「ヨネさんだいじょうけ?」
隣に座ったおばあちゃんが聞くが、ヨネさんは泣き続ける。
代わる代わるおばあちゃんとおじいちゃんが来て、
「ヨネさんだいじょうけ?」。
「ヨネさんどこか悪いのけ?」。
「ヨネさん痛いのけ?」と聞くが、ヨネさんはちっとも返事をしない。
ただただ黙って泣き続けるだけである。
事態は深刻化し、騒然となった。
「ヨネさんが大変だ」。
「急病に違いねえ」。
「この車両に、だれが医者はいねえべか」。
こりゃ大変だ。車掌を呼んでこなきゃと思った時、一人のおじいちゃんが身をかがめてヨネさんの耳元で囁き始めた。
「大丈夫だからなあ、落ち着け落ち着け」と言っているらしい。
そのうち、そのおじいちゃんは「うん、うん」と、うなづき始めた。
どうやらヨネさんが、実情を話し始めたらしい。
しばらくすると、そのおじいちゃんがすくっと立ち上がって言った。
「みな、慌てるでねえ」。
「落ちつけぇ」。
「ヨネさんが泣いてるんはな、どこか痛いんではねえ。病気でもねえ。
泣いているんはな、みんながスケベえな話さして、大笑いしてるのによぉ、自分は少しもスケべな話できねえで情けないと。それで悲しくなって泣いてんだと」。
その瞬間ヨネさんは、
「情けねえ、情けねえ、オラ情けねえ」と、堰を切ったように声を出しながら、大泣きするのであった。