食べる人シリーズ6
取り出したのは、かっぱえびせんだった。
推定40代半ばの男性は、黒いショルダーバックの中から「かっぱえびせん」を取り出すと、袋口を切った。
ここは総武線の車中である。
かっぱえびせんを一本づつ取り出し、口に運ぶ。
車中ということを除けば、別段変わった光景ではない。
だが、どこか違う。
食べる姿が、流麗であった。
よく見れば、えびせんを人指し指と親指ではなく、中指と親指でつまんでいる。
人差し指と小指は、立っている。
いわば影絵の狐状態である。
一本ずつ目で確認してから、口元にゆっくり運んでいるので、さらに所作が綺麗に見えるのであった。
一本を口に運ぶと、目を閉じる。
よく味わっているのだろう、一本を食べる所要時間は、20秒ほどかけている。
「かっぱえびせん」の達人だろうか。
やがて三分の一ほど食べると、袋を閉じた。
バックから輪ゴムを取り出して、丁寧に袋を閉じ、無造作ではなく、しかるべき場所を確認して、収納した。
すごい。
電車の中で食べるという、マナー違反を超越している。
そして達人にとっては、もはや、“やめられない、止まらない”をも、超越しているのである。
食べる人シリーズ6
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