高知のいいところは、海沿いから車を30も走らせれば、山中に入るところである。
海と山という自然の原点に、身を置く心地よさを味わえるところである。
今朝も山中に入り、山道を走ること1時間、山深い吾川郡仁淀川町沢渡地区にやってきた。
山深いといっても、高知市内から1時間20分ほど走行してきた地域である。
清流が走り、山々が迫る。
果たしてこんなところにレストランはあるのだろうか。
するとその店は、街道沿いにポツネンと佇んでいた。
「茶農家の店あすなろ」と書いてある。
陽光がたっぷりと差し込んだ店内が心地よい。
しかしその先のテラス席に陣取ることにした。
流れゆく川の音が遠く聞こえ、鳥のさえずりが響く。
そしてなにより、空気が澄んで清々しい。
こんなところでいただく食事こそ、「ご馳走」と呼ぶのに相応しいのではないか。
都会で生活する我々にとっての、かけがえのないご馳走である。
さっそく、地元のお茶を練りこんだうどんによる「沢渡うどん御膳」を注文した。
まず出されたのは沢渡茶である。
丸く甘い、気持ちがほっこりとなる茶の味に和む。
ここ沢渡は、代々茶畑が多く、沢渡茶という茶を作ってきたという。
店主の岸本実佳さんは、ご主人がこの地区の出身で、都会で働かれていたが、過疎化が進む沢渡地区を活性化したいと思い出移り住み、「ビバ沢渡」というプロジェクトを作り活動なさっている。
その拠点がこの店である。
お茶は、和紅茶で、発酵させているのだという。
発酵茶ならではの渋い旨味がいい。
「沢渡うどん御膳」は、ほんのりと茶の香りが漂ううどんで、茶塩胡麻、刻み海苔、とろろ昆布、お揚げをトッピングしながら食べるのが楽しい。
ここ沢渡地区はかつて、きれいな川の近くに茶畑が連なっていたという。
しかし高齢化によって茶農家廃業による放棄茶園が増え、20数軒が3軒になってしまった。
その現状をなんとかしたいと思って移住してきたのが、岸本夫妻である。
ご主人の祖父母が茶農家をやられていて、13年前に移り住んだという。
「景色を護りたい」。
「沢渡茶」ブランド名をあげたい。
その一心でやられてきた。
この次は是非4~5月に来て、美しい茶畑を見たいと思った。。
岸本さんたちは、飲食店だけでなく、生茶の佃煮といった、様々な茶の商品も開発されてきた。
おそらく、相当苦労もされてきたであろう。
しかしその話をされる岸本さんは、苦労の影など微塵も見えず、明日への希望に満ちた笑顔が輝いているのだった。