「うどんはここでしか食べないんです」。
広末涼子が、そう明言しているうどん屋がある。
高知は、うどんとはあまり縁のない県と思われているが、このコラムを読んでいる方はご存知のように、うどん実力県なのである。
その中でも高知出身の彼女が、小学校時代から通い、他の地方でも浮気せずにたった一軒だけに操を捧げ続けているうどん屋があると聞けば、そりゃあ行きとうなる。
店は市内から離れた、閑静な住宅街の中に、ひっそりと佇んでいた。
しかし中は満席で、賑わっとる。
大勢のお客さんが、一心不乱にうどんをすすっている。
中庭にも席があって、今の時期はここが気持ちよかろうなあ。
まず天ぷらぶっかけを頼んでみた。
ぶっかけの上に、人参、シソ、サツマイモ、エビ、フキノトウ、玉ねぎの天ぷらが載っている。
つるる。
うどんをすする。
箸で持ち上げ、口中に吸い込むと、むにょーんと伸びた。
途中、歯で千切ろうとしたが、ちぎれない。
柔らかいのだが、根性がある、不思議なうどんである
そんなうどんを噛んでいくと、小麦粉の甘みがにじみ出る。
とにかく噛んだ一瞬は柔いなあと思うのだが、感でも噛んでも喉に消えていかない。
讃岐うどんが、男性的な凛々しいコシだとしたら、これは一瞬穏やかな表情を見せながら、芯では“はちきん”のたくましさが燃えている。
あるいは、男勝りで気が強いはちきんの中にやさしさをみたような感もある
その二面性というか、複雑さにハマる。
讃岐ほどで強くなく、大阪ほど柔らかくなく、その中間と言いましょうか。凛々しさの中に柔らかさがある。
それが「三宅」の個性である。
すっかり気に入って、次は温かいきつねうどんをお願いした。
つゆは昆布の味がスッキリ出て上品である、
そしてなにより、お揚げがふっくらとして出汁がしみて、しみじみとおいしい。
全国10大きつねうどんを選べと言われれば、選びたくなるうどんである。
この場所でやられたのは、平成8年1月からということだが、その前は13年別の場所でやられていたという。
つまり、四十六年もやられている。
お出汁は、羅臼と日高混ぜ、めじかと鯖節でとっているという。
ご主人は、昼からの営業のため、毎日朝520から始動される。
うどんを練って踏んで、寝かせ、打つ。
お出汁を引き、おつゆを整え、天ぷらの下ごしらえをする。
そして注文が入ると、天ぷらを揚げ、うどんを茹でる。
いや違う。
普通の店だとそうだろう、
ここはうどんを35分間茹でるのである、
だからある程度お客さんが来るのを見越して、逐次うどんを茹でているのだという。
だからあの柔らかさとコシの強さが生まれるのである。
「うどん、とても美味しかったです」。
そうご主人に伝えると
「その言葉を聞くためにやっています」と、笑われた。