鉄板焼きが苦手である。
お好み焼きや焼きそば主体の鉄板焼きではなく、高級なステーキを主体とした、ホテルに必ずあるような鉄板焼きである。
肉や魚介が目の前で焼かれていても、おいしそうに思えない。
どうも無駄な動きがあるように思えるし、油っぽい余韻が続いて、肉に到達する頃には食欲がヘタれてしまう。
しかし鉄板焼きでないとできない魅力があることを、神楽坂「中むら」で知った。
中村さんは、油を極力使わない。
油を使っても少量であるし、食材からはみ出した油は直ちに拭き取るので、酸化もしない。
鉄板で焼くというメリットとデメリットを考え抜かれているのだろう。
鉄板焼きで魚介が、身が緩い金目鯛を、こんなに凛々しくかつ繊細に焼かれることに驚いた。
肉は、但馬牛である。
某有名な牧場のサーロインとヒレ、シャトーブリアンをいただいた。
圧倒的に素晴らしかったのは、シャトーブリアンである。
シャトーブリアンだから柔らかい。
でもただ柔らかいだけでなく、しっとりと歯に吸い付いてくるいやらしさがあって、反面気高さもある。
肉汁が一気に溢れるのではなく、歯が入っていくそのミリ感覚に合わせて、少ずつ甘い滋味が攻めてくる。
脂のしつこさはなく、飲み込もうとすると、喉元あたりからぐっと旨味が膨らむ。
シャトーブリアンのシャトーブリアンたるよさを、改めて見直した。
「神楽坂 鉄板焼 中むら」の全料理は別のコラムを参照にしてください