矢守さんは、苗色の種を置いて、ゆっくりと石臼を回し始めた

食べ歩き ,

矢守さんは、苗色の種を置いて、ゆっくりと石臼を回し始めた。
次第に薄緑の粉が挽き落ちていく。
粉をボールに取り、湯を入れて、渾身の力で棒を回し始めた。。
やがて粉が固まると、染め付けの小鉢に入れて、蓋を閉めた。
蓋を半分開け香りを嗅ぐと、だだ茶豆のような甘い香りがする。
口に入れると、噛むまでもなく、そばがきは淡雪のように消えていった。
命の脆さを伝える、かすかな甘さだけを残して。
月島「由庵矢もり」にて。