生命力

食べ歩き ,

「瞬」の鰻には、筋肉の躍動がある。
噛もうとすると、歯を押し返すように鰻が爆ぜる。
「俺たちは生きているぜ」と言わんばかりに、命の雄叫びを上げる。
これが鰻である、
5000キロを旅し、川を遡り、地を這い、餌を食う動物の、生命力である。
特殊な捌き方をし、的確かつ精妙に串を打ち、団扇を一切使わず火力を保ちながら、人差し指で筋肉をほぐしつつ焼かれた、岡田流静岡焼きである。
ふんわりと溶けるような江戸風でも、カリッと焼き上げられた関西風でもない。
鰻の息吹に尊敬を込めた焼き方ともでもいうのだろうか。
噛めば、皮下のコラーゲンがにゅるりと甘く流れ、強靭な肉に抱きしめられる。
グッと歯に力を入れれば、断裂した身から脂の甘みと肉体のうまみが渾然となって広がっていく。
その命の凛々しさに、鼻息は荒くなり、上気する。
「俺はうなぎを喰らってるぞぉ」と、立ち上がって叫びたい衝動に襲われる。
それほどまでに、鰻が生き生きと迫ってくるのである。
普通は腹側か皮側を下側にして食べるが、この鰻は横にして、腹と皮を左右にして食べてみるといい。
多分江戸風や関西風なら魅力が半減するであろうこの食べ方は、岡田さんの焼いた鰻を生かすように思った、
肉と皮が同時に咀嚼されて、一瞬、鰻と同化し、まぐあったようなコーフンが訪れるのである。