機内食シリーズ番外編
乗り物に乗ると、なにか事件が起きる。
もし、そんな運命を持つ人がいるとすれば、それは私である。
新幹線でも、飛行機でも、フェリーでも、なんらかの小さな事件に遭遇する。
ある日、ロサンゼルスから成田へ向かうANA便の、ギャレイ近くの通路側に座っていた。
客室乗務員が頻繁に出入りし、食事時ともなれば、さらに慌ただしくなる。
客室乗務員の中で、年の頃は28歳位であろうか。丸顔の美人がいた。
彼女がなぜか、こちらをちら見するのである。
最初は気のせいかと思ったが、ギャレイから出入りするたびに、こちらを一瞬見る。
サービスする際の笑顔が素敵なのだが、こちらを見る時の顔は、真剣で、少し怖い。
しまった。
社会の窓が開いていたかと股間に手をやったが、しっかり閉じている。
鼻くそが顔についている。
マジックで頬に書いてしまった。
寝ぐせが変。
セーターを、前後ろに着ている。
足がくさい。
顔がブラッド・ピットにそっくりである。
あらゆる可能性を探ったが、どれも当てはまらない。
となれば答えは一つ、「私に恋をした」である。
はは。
世の中にはいろんな好みがあるさ、俺も捨てたもんじゃない。
「どうぞ、好きなだけ見なさい」と、ちわ「ちら見を堂々受け止めた。
食事が終わり、落ち着いたところで、また視線を感じる。
彼女がギャレイから顔を半分出し、こちらを見ているではないか。
視線が熱い。
そしてついに彼女は行動に出た。
思いつめたような顔をして通路を進むと、通路側の私の席まで来て、脇にしゃがむではないか。
さらにあろうことか、両手を僕の太ももの上に置いたのである。
おののく私を目の前にして、彼女は一呼吸して、言った。
「あの。山藤先生ですよね」。
咄嗟に、言葉が出ない。
目を丸くしたまま、顔が固まった。
一瞬で人違いに気づいたのだろう。
彼女は顔を真っ赤にして、走り去った。
山藤先生とは誰なのか。
恩師か、ご両親の命を救った医師なのか。
地元の名士なのか。
なぞは残された。
手の温もりが残る太ももとともに。
※写真は無関係な映像です
写真はイメージです。ご本人ではありません
1980年代のユニフォーム