柿澤津八百さん、90歳。

日記 ,

やたら僕がかしこまっているのは、この方からお話を聞く機会を得たからである。
柿澤津八百さん、90歳。
2005年に、惜しまれつつ店を閉じられた、新橋「つる寿」のご主人である。
平松洋子さんの聞き語り名著「旬の味、だしの味」を読まれた方も多かろう。
多くの料理人を輩出した名割烹、大阪「つる家」で修行し、金沢の「つる幸」と二軒、「つる」の名前を使うことを許された人物である。
清元の家元家に生まれながら、別の道を歩み、店は中村吉右衛門や長谷川一夫をはじめ、多くの名士が顧客だった。
古き良き時代の仕事の片鱗を伺いたいと思い、お会いできる光栄を得られた。
ご挨拶をすると、さて、何からお話ししましょうかね」と、満面の笑みを浮かべられた。
記憶も明晰で、修行時代のお話も正確に話していただいた。
「料理は手間暇を抜いたらいけません。でも時代は変わったようですなあ」と、温和な顔に、少し厳しさが刺したのが印象的だった。
さてこの希少なお話をどこで、披露しようか。