その二つの麻婆豆腐は、今まで出会ったどの麻婆豆腐とも違っていた。
一つは呉先生が作った麻婆豆腐である。
呉氏は、成都の人間国宝シェフから教わったという。
まず牛ひき肉を水分が飛ぶまで炒め、取り出す。
次に火を弱め、豆豉、生姜とニンニク微塵を入れて香り出す(生姜かなり多い)。
花椒はなし。
辛味が弾ける中、余計なうまみがない分、牛肉の滋味が感じられ、そこへ優しい豆腐の甘みが追いかける。
これはいい。
日本に帰ったらやってみよう。
呉先生のキッチン「愛飯團 」にて。
次が蟹麻婆豆腐である。
元々は陳健一さんの麻婆豆腐だったが、新シェフが就任後、蟹好きの台湾の人たちのため考えたのだという。
大皿の上にはオレンジ色に煮込まれた麻婆豆腐と、蟹の甲羅が輝いていた。
お隣には、炊き立てのご飯がお供する。
蟹はわたり蟹に似ているが、”紅蟳”だろうか?
オレンジ色の卵が見え隠れしている。
ご飯にかけて出してくれた。
ふふ。
一口食べて思わず笑う。
蟹身の穏やかな甘みと卵の濃密な味が豆腐を包んで、たまりません。
脇目も振らず、一言も漏らさず、一心不乱でかきこみ、気がつけば、茶碗は空でした。
台北リージェントホテル「晶華軒」にて