「旬香亭」のハンバーグは神々しい。
粗挽き牛肉だけを使った、肉肉しいハンバーグなれど、どうだすごいだろうという驕りもなく、静かに佇んでいる。
でもオーラが湯気となって立ち上り、ナイフを入れるのをためらってしまう。
艶やなデミグラスソースは、すぐにかけたくない。
このままでまずはどうぞ、というシェフの心意気を感じてなにもつけずに食べてみる。
ナイフで切っても、「おお、すごい肉汁です!」とレポーターが勘違いする半透明の脂は、一切溢れ出さない、流れ出ない。
これこそが真っ当な肉料理の証である。
プロが、丹誠込めて作り上げた料理なのである.
肉の香りが口の中に溢れ、肉のエキスが喉から胃の腑に落ちていく。
感謝の気持ちが自然とわき上がる。
「いつまでもいつまでも噛まさせてください」。
次第に無くなっていくハンバーグに寂しさを感じ、切なくなりながら、一人呟いた。