愛に満ちたパスタであった。
吉田牧場のブラウンスイス牛を使ったラグーである。
料理名は「丹羽栗 挽肉 山椒 マジアクリ」と記されている。
ブランスイスの穏やかさを尊重して優しく炒め煮にしたラグーが、パスタにしなだれかかる。
食べれば、口の中を甘い乳の香りが吹き抜けた。
懐かしさと温かさを感じる乳の香りが、静かに舌の上を漂って、鼻に抜ける。
そこへ同じ牛の乳から作ったマジアクリチーズが、そっとうま味を乗せる。
このチーズは旨味が濃く、料理のうま味を深くする役目を果たすが、このパスタでの役目はそうではなかった。
味を補填するというより、牛の味わいと馴染もうとする意思がある。
それゆえに食べると、ラグーとチーズの境目がなく、すうっと合一してしまう。
そこへ完熟山椒がアクセントし、栗を加熱して溶け出したほの甘いでんぷん質が、パスタとソースをつなぎとめる。
チーズ、山椒、栗の三者がそれぞれの役を演じながら、ブランスイスの静かな旨味を邪魔しないように見守っている。
まるで我が子をいたわるように、年老いた母をねぎらうかのように。
そこには至上の愛があった。
「チェンチ」にて