最も驚かされたのが、レバーと背肝だった。
口にしたまま、一体何が起こったのか、戸惑いながら、酔いしれる。
レバーは、みずみずしくふわりと舌の上で崩れながら、艶のある香りを漂わす。
ああ、フォアグラに似た甘い香りが、鼻に抜けていくではないか。
鉄分は、ほのかにも感じさせない。
こちらもなしなやかで、ほの甘い香りが流れ出す。
こんな背肝は食べたことがない。
肉もまた、初めての味わいを舌にもたらしていた。
上に刺したのがメスで、舌に刺したのがオスだというもも肉は、味と触感が違う。
メスは優しく脂が甘い。
オスは凛々しく、噛みしめる喜びがある。
同じくメスとトスが焼かれたもも肉のたたきは、オスが手前に置かれていた。
エシャロットのソースと合わせるので、最初がメスだと味をキャッチできなくなってしまうからだという。
天城軍鶏である。
放血し、神経締めし、3日寝かせた天城軍鶏である。
だから味がきれいなのか。
血のいやらしさや肉の酸味もなく、脂が多いのにくどくなく、純粋なうまみが長く余韻に残るのか。
よくわからない。
ご主人は、どれも丁寧かつさらりと説明するが。その奥には、血のにじむような試行錯誤が隠されているには違いない。
他の料理や焼き野菜もまたそれを感じさせたのだが、その話はまた後で。
浜松「幸羽」にて。