ヒラメはソースに触れながら、少し恥ずかしそうだった。
パリッ。
ナイフを入れると皮が弾ける音が響き、身に吸い込まれていく。
はらり。
ヒラメの身が舞う。
花弁のように舞いながら、ほのかに甘い、上品な滋味を滴らせる。
エシャロットソースの凛々しい酸味が、ヒラメの気品を愛おしむかのように持ち上げ、膨らませる。
鋭くない、丸くもない。
適妙に角が取れ、太くなった酸味が、ヒラメの甘みを際立たせるのだよ。
斉須シェフのメッセージがそこにある。
ふわり。
噛めばヒラメに歯が包まれて、心が撫でられる。
体が弛緩して、幸せがじっとりと満ちていく。
「コートドール」にて。