夜の稚鮎

食べ歩き ,

これは夜の稚鮎である。
揚げた稚鮎は、焦げ茶の中でうごめいていた。
タマリンドとうるかを合わせたソースと、ベトナムコーヒーのパウダーがかけられている。
カリッと頭にかじりつけば、うま酸っぱいソースが鮎の苦味に絡んで、口の中にみるみる唾液が溢れていく。
その中をベトナムコーヒーの甘い香りが漂う。
コーヒーの苦味と稚鮎の拙い苦味が重なって、複雑さを増し、そこへ濃いアルゼンチンのカベルネソービニオンを流し込めば、また違う苦味が抱き合って、一筋縄ではいかぬカオスのうま味が生まれている。
その混沌とした怪しさが、夜を思わせる。
普段、幼い稚鮎からは感じない、夜の深さに似た艶を滲ませるのだ。
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