噛んではいけない。
どんなことがあっても、蟹味噌のルイベは、噛んではいけない。
少しだけを口に入れたら、一回だけ甘噛みをして、舌先に載せる。
次に舌を上顎に上げて、軽くて押しつぶす。
すると蟹味噌のルイベは、口内の温度で、ゆっくり溶けてゆく。
甘みか顔を出す。
香りが立ち上がる。
脂のコクが、静かに膨らみ始める。
その官能が喉に落ちる前に、燗酒を少しすすろう、
そうだな、酒はほんの少し、5cc以下がいい。
すると凍ったカニ味噌は、息をふきかえし、妖艶な艶を醸しながら、口腔内の粘膜を睨め回しながら消えていく。
ため息ひとつ。
あとは長く残る甘美な余韻を肴にして、燗酒を飲む。
「蟹味噌のるいべ」