美味しい物を求めて名古屋に来た。と書くと、多くの東京人は首をひねる。
名古屋名物を思いつくままにあげてみよう。
ひつまぶしにえびフライ。味噌カツに味噌煮込みうどん。鉄板ナポリタンにあんかけスパ。小倉トーストにシロノワール。台湾ラーメンにカレーうどん。きしめんに手羽先唐揚げ。天むすにういろう。
どちらかというと味が濃い炭水化物系料理が多い。だから、名古屋の食をなめている人が多いのである。
しかし僕は違う。
名古屋に行くと思うだけで、よだれが出てくる。
この地には、日本一だと言って疑わない、小料理屋と創作割烹の店があるし、東西で一二を争う和菓子屋もある。独自の世界を切り広げているフレンチもあれば、肉焼き名人がいるイタリアンもある。中国料理も寿司もバーも、とんかつも秀でた店がある。
後々そんな店たちのご紹介をしたいが、今回は、「味噌煮込みうどん」である。
味噌煮込みうどんといえば、東京にも進出した有名店を思い浮かべる人もいようが、今回は地元の人がこよなく愛する2軒の店である。
ただし、2軒とも繁華街にはない。駅からも遠い。名古屋の名店とされる店は、いずれもこの条件下にある。
だから名古屋でおいしいものを食べようと思ったら、前後の時間をたっぷりとって、タクシーを飛ばすか、レンターカーを借りるか、ひたすら歩く。これが名古屋美食巡りの鉄則なのである。
1軒目の「ミッソーニ」は、徳重駅という地元の人以外は、どこですか? という駅から2キロ弱の場所にあるが、2キロを歩いたことが、十二分に報われる店である。
「ミッソーニ」は、汁の味が素晴らしい。丸く、穏やかで、味噌の練れたうま味が舌を包み込む。細く、少しだけコシを見せるうどんも、この汁と馴染んで、つるつると口元に登ってくる。
その優しい風味と食感がたまらず、一気に食べる。とはいえ熱いので、特有の穴のない蓋を器にして、とりわけながら食べ進む。最初はそのまま、次に一味をかけ、次には山椒をかける。
味噌の甘みを一味や山椒の刺激が引き立て、つるるんるん。
最後まで残しておいた玉子はつぶして汁と混ぜて飲む。
困ったことに、この汁は後を引いて、いつまでも飲み続けていたくなってしまうのである。二口で飽きてくる他店とは違う誠実な味わいである。
名店ながらそんな混雑していないので、カウンターに座ってゆっくり過ごすのがいいだろう。オススメは、鳥もも肉と卵の入った「親子味噌煮込み」790円か、「名古屋コーチン味噌煮込み」1440円だろう。せっかく訪れたのなら、ぜひ後者をどうぞ。
2軒目の「まことや」は、鶴舞線川名駅から徒歩12分の場所にある。店内は常に満席で、次から次へと客がやってくる。
「まことや」のオススメは、プリリと弾けるエビ天が乗った、「えび玉子」1120円か、それに鶏肉を参加させた「親子味噌えび」1220円である。
この店の汁は、辛い。パンチが効いている。恐らく若い味噌を使っているのではないだろうか。
魅力はうどんである。よれたうどんは、コシが強く、20回ほど噛んでようやく口の中で消えていく。
このうどんの凛々しさと味噌の辛さが、実によく合う。
「ミッソーニ」のように、汁を飲み干すタイプではないが、味噌煮込みうどんでご飯をかき込みたいっという人には、こちらの方がいいだろう。
食べながら「ああ、ここにご飯をぶち込みたい」という気持ちがむらむらと沸き上がり、すんでのところで「すいません小ライスください」といってしまうところだった。
よく我慢したと思う。
「味噌煮込みうどんなぞ、あんな味の濃いものハシゴできるわけがない」と、当初は思っていたが、意外であった。
優れた味噌煮込みうどんは、ハシゴが出来るのである。