口、喉を総動員して、噛み締めるべし。

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今年はやったもの。その一つが讃岐うどんである。

例えば「かけうどん百円」という価格で、九月に讃岐より渋谷公園通りに進出したはなまるは、一日中長蛇の列が出来ている。人々が熱狂するのは、安さかコシか手軽さなのか。人を魅了する讃岐うどんの魅力、それは考えるに、コシと香りに集約されるのではなかろうか。

「讃岐うどんは喉で噛め」という言葉がある通り、讃岐のうどんは、歯、舌、アゴ、口腔、喉を総動員させる雄々しいコシが身上だ。

雄々しいといっても、ただ固いのはコシではない。うどんを噛み切ろうとする歯を押し返す、むっちりとしたコシ、うどんの強い自尊心を感じる反発力こそコシなのである。

次に香り。噛んでいるうちに口の中でふうっと広がる、ほの甘い小麦粉の香りが心を和ませるのだ。そんな優しい香りと凛々しいコシ。この対比こそが讃岐うどんの魅力であり、二つの感触を覚えてしまうと、恋しくてたまらなくなってしまうのである。
僕も讃岐で虜となり、東京で「すみた」に出会った。太く、切り口の角が立った凛々しい姿。そのくせ艶やかでみずみずしく、肌がきめ細かい。一本が長く、途中で噛み切ろうとすると、歯向かうようにびよーんと伸びる。
そしてコシ。小麦粉の豊かな風味で口の中を満たしながら、もちもちと噛むこと弾むこと二十回で、ようやくのどに落ちていくのである。

おすすめはイリコでとった上品なダシに半身浴したぶっかけで、口腔全体と脳に刻まれる雄々しくも穏やかな讃岐うどんの記憶が、かならずやあなたを虜にするはずである。

この秋に開店した小石川も、讃岐うどんの魅力に満ちた店である。

うどんは細打ちで、一見ヤワな感じに見えるが、華奢な体に秘めた芯の強さはたくましい。

つるりと滑らかな肌が口におさまると、もちもちと弾んで、口の中はほの甘い小麦粉の香りと滋味が漂うのである。

数ある品書きの中でのおすすめは、うどんの甘みとトマトの酸味の出会いのよさに驚く、トマトやまいもうどんである。
最後にセルフの店も紹介しよう。ふるさとだ。

自分でゆがく讃岐のセルフとは違い、ゆがいたうどんをもらう半セルフ方式だが、上品なつゆ、ずらりと並ぶ天ぷら、取り放題のネギ、揚げ玉、生姜、値段も本場に近い。香りは薄いがコシは立派。六番は打てる腕っぷしだ。

本場風にかけうどんにちくわ天を乗せて二百六十円。

もし将来、この店が女子高校生で溢れたら、東京のファーストフード事情は俄然面白くなるのに違いない。

讃岐うどんの魅力はコシと香り。口、喉を総動員して魅力をかみ締めるべし。