危険な遊戯

食べ歩き ,

場所は、神戸長田。看板も表札もない。

どう見ても民家。
自販機横の細長い通路を抜けると、カウンターとテーブル席が一つ。
ここでようやく、飲食店だと気づく。

カウンター内には、エプロン姿のおばはんが一人。
カウンターの外には、エプロン姿のおっさん一人。
おばはんが料理をして、おっさんが運ぶ。
おばはんがしゃべくって、おっさんはしゃべらん。
今日はふぐとは聞いてきたが、どうみてもこのおばはんに、ふぐの免許があるとは思えません。

「なあ兄いちゃん、これもうちょっと負けてえや」。
「いやあ、これ以上は無理や」。
「なに言うてんねん。こんなん使いもんにならへんやろ、誰も買わんで。それをおばちゃんが買うたるゆうてんのや、負けて」。
と、天王寺あたりで値段交渉していそうなおばはんが、ふぐをさばくのだ。
生命に危険を感じた。

このまま、誰にも傷をつけず、事を荒立てず、穏便に帰ることはできないのか。

「おっきな、ええ奴を仕入れといたでえ」。
とおばはんがいう。
なおさら不安。

「てっさの前に、これ食べてや」と、差し出されたのが、握りずしだ。
ふぐ刺しの握り、白子の握り、○○の握りである。

おばはんは、 「ぷっくり太った、ええ○○やでえ。東京じゃ○○食わんらしいから、今日はぎょうさん食べてってや」と、鼻息が荒い。
危険を感じたボクの鼻息も荒い。
覚悟を決めた。

恐る恐る口に運べば、上品な、ふぐならではの○○のコクが、酢飯の甘味と抱き合う。
天国の父を想うが、舌は痺れず、幸せが募るばかりで、坂東三津五郎になる気配はない。
おばはんやるやないか。

うっすらとあめ色を帯びた,白透明の切り身が、染付けの大皿を透かして、つやつやと輝く、てっさ。
○○のてっちりとその脂を掬い取るようにして食べる青菜。
見事なてっちりの肉。

名奉行による雑炊。
お好み焼きのおいしい店たずねたら、
「それやったら、うちがいちばんおいしいわ」と、にべもすべもない。
ふぐちりだけでなく、ステーキも、お好みも、すっぽんもやりよるそう。

神戸おそるべし。
それにしてもこの店の名前、なんていうんだろう。