力が抜けた

食べ歩き ,

力が抜けた。
一口食べて、体中の肉が弛緩した。
その輝く焦げ茶色のソースは、美しい酸味を隠しながら、旨みと甘味が膨らんでいく。
酸味も甘みも旨みも丸く、渾然一体となりながら舌を抱きすくめる。
ご飯の甘みと舞いながら、人間を無力にする。
肉は、舌の上に乗った瞬間に、ほろりと崩れて跡形もない。
だが肉の味と香りを余韻に残し、ソースと一体となって、高みに登っていく。
日本一のハヤシライスである。
古典フランス料理の知識と技術に精通した達人、中野シェフが作り出す、日本一のハヤシライスである。
麹町「オープロヴァンソー」にて。