僕もかつては、とんかつが出されたら、全面にソースぶっかけ、なんの疑問も持たず、端から順に食べていた。
だがある時、「揚げたて衣の軽快感が最後には湿気て、勿体無い」ということに気がついた。
そこでそ、二切れずつソースをかけることにした。
これで衣のサクッとした食感は救われたが、さらにサクッとした食感をのこそうと、一切れずつかけることに至った。
しかしある日に、魔が差した。
「いつものとんかつを、ソースをかけずに食べたら、どんな味がするのだろう?」
そこでお気に入りのとんかつ屋で、なにもかけずに食べて見た。
するとなんとも味気ない。肉の味わいが薄い。
その時の記念すべきカツが、写真である。
今までは衣の香ばしさと、ソースの旨味だけで喜んでいたわけだなと気づき、愕然とした。
同時に「とんかつとは、少々肉の質が悪くても、ソースの味と衣の食感と香りで、美味しく食べることができる料理である」という真実に近づいた。
だが、このままでは逆に肉の美味しさに気がつかないことになる。
そこで次からは、最初は塩だけで食べるようになった。
そして最近の一口目は、左から三切れ目の一番バランスがいいロースの芯を。何もかけないで素のまま、肉を舌側にして食べるようになった。
最近の豚肉は、品質が向上しているので、素のまま食べても、十二分にご飯喚起力がある。
だからとんかつ研究者としては、最初の一切れは、素のまま食べて欲しいとオススメしているが、強要はしない。
塩、とんかつソース、Worcester sauce、ケチャップ、醤油、溶き辛子、レモン、各自お好きなように食べるのがとんかつである。
そのため、とんかつが運ばれてきて、「塩をかけて食べても美味しいですよ」というサジェスチョンではいいけど、「最初は塩で食べてください」と言われると、天邪鬼の虫が騒いで、いきなりソースをかけたくなってしまう。
先日も、隣の男性は、初めから全部にソースをかけ、ご飯大盛りを豪快に食べていた。
こちらはダイエットのため、ご飯半分以下、かつには
ほとんど何もかけない。つけない。
でも何か、羨ましい気持ちになっている自分がいるのも確かである。