「修行させていただいた店のスタイルを、最初はやっていたのですが、自分の年齢ではまだ早いと思い、若いからこそできる挑戦を、まずはいろいろやらせていただきたいと思っています」。
ご主人篠原武将氏は、「招福楼」や京都「三玄茶」で修行されたという。
父がやっていらした店に戻り、今は主となっている。
33歳。
昨今の日本料理会では、30代の料理人が独立し、店を構えることは珍しくない。
若いしなやかな感性と行動力で、新しい料理を生み出す。
しかし「珍しいものろおいしいものは違う」。「伝統的日本料理の凄みと恐ろしさ」を体感して、作られている人はどれだけいるのだろう。
篠原さんは、その怖さを知りながら客観的に自分の仕事を捉えているのだと思う。
昆布出汁は味の調整だけでごくごく控えめにし、カブの出汁と伊勢海老の塩気でまとめたお椀は、篠原さんの個性と食材への真摯な敬意に満ちていた。
蕪の優しさと伊勢海老の力が共鳴して、命への感謝を浮かばせる。
またヒグマのトウチ炒めの素直なおいしさも、ヒグマと芹の白味噌椀の深き滋味も、すっぽんの出汁で整えた鮑とフカヒレのあんかけごはんも、決して豪華な食材を使って見栄を張ることではなく、自分がおいしいと感じた料理をお客さんにも喜んでもらいたいという、真っ直ぐな心の気配があって、微笑ましい。
茶懐石本流の素晴らしさは知りつつ、自分の力量がまだ達していないことを自覚し、いつかその境地に追いつかんとする料理がここにある。
滋賀 甲西「しのはら」。
修行させていただいた店のスタイルを
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