二月の蟹は美味しい。
肝臓、つまりカニみそに、白い脂がみっちりとまつわりついて、命のしたたかさを知らしめる。
天然のフォアグラとなって、我々をうんうん唸らせる。
越前から水槽にも入れずに直行した蟹様は、我が前といわれる港のすぐそばで撮られた蟹だという。
水深300mほどの蟹と違い、180~200mで生息する蟹は、水圧の影響を受けず、カニの脚が太い。
敵は水圧であるから、当然ながら横幅が太いのではなく、上下に太い。
こいつを茹で、焼き、しゃぶしゃぶにする。
茹でた蟹をほぐし、カニみそをかけて食べる。
蟹の清廉な甘みに、いやらしいカニみそのうま味が覆いかぶさって、食べ、笑っているのに、食べてはいけない思いがよぎる。
人間の強欲と蟹の神秘が渦巻いて、複雑な気分を運んでくる。
だからずわい蟹は、人を惹きつけるのかもしれない。
甘みでは、毛ガニやタラバが上なのに、うまみのバランスに品があり、いいものであればあるほど、エロスがにじんでいる。
体液が、舌に上顎に歯に唇にまとわりついて、べたべたと甘えてくるのが、その証でもある。
2月といえば、禁漁で食べることはかなわないが、雌のせいこ蟹も味が練れて最もおいしいのだという。
雄の肉をしがみ、汁をしたたらせながら、遠く食べられぬ味を思いやり、一人熱くなる。
二月の蟹は美味しい
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