「二つ星なのに、ずいぶん不親切だなあ」と、最初は思っていた。
夜の8時に最寄駅に降り立つと、タクシーはおろか、店も人家も何もない。
これは大変だと、店に電話すると、英語ができないスタッフが多いらしく、二、三人入れ替わって、ようやく一人がこちらの状況を理解してくれた。
「タクシーを駅に呼んでくれないか?」と頼むと、
「タクシー会社の電話番号を教えるから、そちらからかけてくれないか」。
そこで電話するも、まったく人が出ず。
一方でようやくウーバーを見つけて、呼ぶも、なぜか途中で消失。
一人がヒッチハイクしていこうというのを懸命になって止め、歩いていこうというのも一時間知らない田舎道を歩くのは無理と諦め、さらにその人は、バスの運転手を捕まえて、送ってくれないかと交渉するという。
それはどう考えても無理と言いながら、再度店に電話すると、「心配するな。今シェフの友達が迎えに出たから」と。
しばらくすると、その友人が車で迎えに来てくれ、無事に着いた。
帰りも早めにタクシーを呼んでもらったが、しばらくして、「タクシー会社に電話したが出ない」と、情けない顔をしている。
夜の11時。もうこの店に泊まるしかないのかと思っていると、シェフ自らが自分の車で送ってくれるという。
こうして一時間かけてミラノまで送ってもらい、シェフはまた一時間かけて店に戻っていった。
都会の洗練された対応ができないだけで、皆、純朴で心根が優しい人なのである。
先に帰ってしまったグランシェフは、高取さんがお酢をプレゼントすると、「ありがとうありがとう」と何度も言いながら、大事そうに抱えて笑っていた。
料理にもその心根がにじみ出ている。
派手さも突き抜けた個性もないが、シャンパーニュとエビのリゾットにそっと入れたレモングラスや、鮭のソースに香るフィノキオやサフラン、あるいは、チーマディラーパのパッケリのしみじみとしたおいしさなど、さりげなさの中にある豊かな接遇の精神が、我々の心をもみほぐすのである。
ミラノ郊外 「アンティカ・オステリア・デル・ポンテ」の料理はこちらで
二つ星なのに
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