中指を食べた。
全長約20㎝のヒグマの中指を食べた。
小浦場さんと、一人二関節分ずつ食べた。
80度のお湯をかけながら、8時間かけて皮をむき、それから二日間かけて調理された中指が鎮座して、熊のフォンと赤ワインとバルサミコのソースにまみれて、ギラリと輝く。
手の平側か赤肉、甲側が白い肉という。ナイフを入れると、肉は弾むように抵抗しながら切れていった。
噛むと歯は、肉に抱き込まれるようにして、ようやく千切れる。
コラーゲンの塊のようでいて、脂がある。
脂の濃い甘みとコラーゲンの柔らかな甘みが混沌と溶けていく。
牛の大腸の脂が引き締まったようであり、豚のかしら肉にほどよく脂を刺し込んだようであり、そのたぐいまれな食感に、「あわわわ」と、口が開いたままとなる。
小浦場先生によれば、筋に脂の粒が無数についている状態だという。
つまり大きな四足動物の中で、こんな肉質を持つのは熊の手だけなのだ。
以前福臨門で食べたことがあるが、それはまさに手の平で指ではなく、またこのソースの方が、より我々の内なる野性を叩き起こす。
「ふんっ」。
その前に食べた、ヒグマ小腸の煮込みの野味に炊きつけられた精気が、中指で感極まり、鼻から勢いよく噴出した。
中指を食べた
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