VERA PIZZA NAPOLETANA。
この文字と職人が柄の長いヘラを持っている絵が書かれた看板を、ご覧になったことはないだろうか。六年前には皆無だったこの看板は、世界に約二百軒という、「真のナポリピッツァ協会」認定の証なのである。
現在認定店は急増中であり、同時にナポリに修行に出かけた人たちが開店するピッツェリアも増えている。
かつてのスパゲッティがそうだったように、いま東京は、長い間のアメリカ経由ピザ時代から、真のナポリピッツア時代へ移行しつつあるのである。
その草分け的存在が「サヴォイ」である。
東京初のナポリピッツァ専門店として1995年に開店来、ピッツァはマルゲリータとマリナーラの二種類のみ。
これだけ店が増えようとも、協会が伝統的なピッツァとして認める二種類に絞りこんでいるのは潔い。注文が入ると生地を伸ばし具を乗せて四百度前後に保たれた薪釜へ。
一分で焼き上がる熱々をほおばれば、具が乗った薄い部分にもたくましい弾力があり、ナポリピッツァの命である膨らんだコルニチョーネ(縁)も、もちもちと弾む強いコシがある。
その一方で口溶けは軽く、粉の風味を残して喉に落ちていく。
モッツァレラ、トマト、バジル、たっぷりのオリーブオイルの共演も見事。
パリッと焼き上がった裏側の焦げも、香ばしい。ナポリピッツァの魅力を知りたければ、真っ先にの店に直行し、マルゲリータを食べるべし。
同じく認定店である「パルテノペ」で食べたいのは、マルゲリータ・ブッファラ(火、金曜のみ)だ。
水牛の乳による伝統的なモッツァレラとチェリートマトによるピッツァで、牛の乳のモッツァレラよりコク深い味わいと、トマトの酸味と甘み、バジルの香り、粉の風味という大地の豊かさが調和した、マルゲリータの醍醐味を噛み締めることができる。
また日によっては、ペコリーノチーズ、バジル、自家製ラードによる、ナポリ最古ピッツァ「マストィニコーラ」なども登場するので、その素朴なおいしさをぜひ味わってみよう。
認定店ではないが、すご腕のピッツァイオーロ(職人)がいるのが、「ベッラ・ナポリ」だ。
やや小ぶりながら、粉の風味が立ったピッツァで、頼みたいのは、岡山吉田牧場のモッツァレラを使った、マルゲリータ・コン・ヨシダ。
フレッシュな乳の香りと濃厚な甘みのある、吉田牧場のチーズの力強さが口中に広がって、陶然となるピッツァである。
ナポリピッツァの魅力は、小麦粉の風味である。
だからコルニチョーネは残さず、しっかり噛み締めよう。
現在東京に急増中なのだ。
「真のナポリピッツァ協会」認定のピッツァには、材料、製法、窯、熱源、使用する器材、仕上がり具合、具の組合せと、幾多もの厳しい条件がある。
しかしその真意は、連綿と続いてきた職人技を再評価し、伝統を守ること、伝統技術を後世に伝えるための明確な基準作りにあるのだという。
手早く出来上がり、簡易に場所を問わず食べられる料理ながら、こうした文化尊重の精神があるのは、さすがスローフード発祥のイタリアである。
さて、そんな真のピッツァがいただける店の一つが、「ピッコラ・タボーラ」だ。
入口正面の窯では、職人が次々とピッツァを焼いているので、店に入った途端に食欲があおられる。 ランチは、ピッツァの値段はそのままで、サラダと飲み物が付く。
メニューには32種のピッツァが並ぶが、ここは協会に敬意を表して、伝統的な「マルゲリータ」といこう。
この店のそれは、ピッツァの命といわれるコルニチョーネ(縁)がふっくらと大きく膨らみ、他店よりモッツァレラがふんだんに使われているのが特徴だ。
小麦粉の香り漂う生地、チーズ、トマト、バジル、オイルの持ち味が渾然となった味わいをかみ締める。
素朴さの中にある豊潤な味わい。それはイタリア人でなくとも、永遠に愛したくなる味わいである。