月島「韓灯」

ビビンバの真実。

食べ歩き ,

オンマが特別に作ってくれるビビンバは、地平線の彼方まで優しい。
韓国人でもないのに、一口食べた途端、懐かしがせり上がり、心が温まっていく。
「炊き立てご飯じゃないと美味しくないの」と、炊き立てのご飯をボウルに入れ、ビビンバ用に作った、牛挽肉と卵と香味野菜の炒め物、各種ナムル、春菊、セリをいれて、特製スプーンフォークで混ぜて、混ぜる。
「食卓は大人だけのもの、子供は大人の食事が終わったら食べることができる」という昔の韓国では、時には大人の男だけが食事をし、終わったら残ったおかずを食べるという習慣だったという。
男たちは、後から食べる女子や子供のためにおかずを残しておく。
ただし肉などは人数分なかったから細かく切って、すべてをご飯と混ぜ合わせた。
それがビビンバの始まりだったという。
混ぜに混ぜてもらったビビンバは、オンマの心根がにじんでいる。
80歳過ぎてもなお可愛く、肌も綺麗なオンマの食べる人への想いが混ぜられている。
「どんなに悲しくても、美味しいものを食べている時に泣く人はいない」。
オンマはそうお母さん言われた言葉を胸に刻みつけ、一家心中を考えるまで思い詰めた時も、踏みとどまり、頑張って来た。
食べ物がもたらす真のありがたみを知っている人の料理には、神が宿っている。
ビビンバを噛み締めながら、僕はそう思った。
韓灯にて