~サヨリの色香〜

日記 ,

~サヨリの色香〜
ベストは、さよりだった。
噛んだ瞬間、噛んではいけないものを食べた気がした。
柔らかく、しなやかな肢体に、大海の流れに抗う凛々しさを見たからである。
上の歯と下の歯で断ち切ろうとする刹那に、微かな命の抵抗がある。
そして、惚れ惚れとするほど分厚い、白みがかった透明な肉から、緩やかな甘みが流れてくる。
酢飯は、はらはらと舞いながら、千切れたさよりと手を取り、抱き合う。
酢飯の酸味が、さよりの甘みにそっと艶を与えて、消えていく。
僕は、もういたたまれなくなって、頬を赤らめた。
五月の「すきやばし次郎」にて。