グラタンにフォークを差し込んで、ぐいっと持ち上げる。
その瞬間に、気が遠くなる。
子供の頃から、何度も食べてきた。
大人になって、たくさんのご馳走を食べた。
でも、この胸の高まりだけは、おさまらない。
中には何が入っているかわかっているさ。
どんな美味しさかもわかっているさ。
でもどうしようもなく、どきどきするんだよ。
ところどころに茶色く焦げた、香ばしく、艶めいた、人跡未踏の大地にフォークを入れる。
もうそれだけで危ういのに、力を上げて持ち上げれば、乳白色のホワイトソースをまとったマカロニが現れる。
「やれやれ、やっと食べてもらえるのか」と、待ちかねたマカロニは、湯気とともに空に上がり、フォークにしなだれる。
僕はその瞬間に,気が遠くなる。
まだ食べてないというのに。幸せが体に一気に満ちて、気が薄らいでいく。
「香味屋」にて。
グラタンにフォークを差し込んで、ぐいっと持ち上げる
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